こんにちは、にしこです。
家に帰って靴を脱ぐとき、玄関の段差をどう感じますか?
普段は気にならなくても、将来車椅子やシルバーカーを使うことを想定すると、段差の高さや数が重要になってきます。
今回は「上がり框」と「玄関アプローチの階段」を比較しながら、暮らしや将来を考えた段差設計のポイントをまとめます。
なぜ玄関に段差があるのか?建築基準法との関係
日本は高温多湿な国であるため、湿気による建物の劣化や衛生問題を避けるため、「建築基準法」により、原則、居室の床は直下の地面から450㎜以上高くすることが義務付けられています。(建築基準法 第21条)。
- 雨水の侵入を防ぐ
- 床下の換気を確保する
- メンテナンススペースを確保する
などの理由からです。
戸建てですと、一般的に地面から床までの高さは50㎝程度の住宅が多いようです。
上がり框とは?役割と高さの標準値
上がり框とは、玄関の土間(たたき)と室内の床を区切る段差部分のことです。
上がり框の役割
- 室内と玄関を分ける
- 靴の泥や砂の侵入を防ぐ
- 腰掛けや立ち上がりの補助になる

座って靴が履けるというのは便利ですよね。
上がり框の高さについて
- 最近の戸建ての標準の高さ:18cm以下
- 集合住宅の標準の高さ:11cm以下
(バリアフリーの観点から国土交通省の「高齢者等配慮住宅設計指針」で推奨されています → 公式リンク) - 昔の住宅:30~40㎝が一般的。式台を設けて2段にしていた家も多い
高さは家庭の状況やライフスタイルで調整可能で、10〜30cmの範囲が一般的です。
上がり框vs玄関アプローチの階段|どちらが安全?
近年では、上がり框が低く設定されるようになり、家の中への入りやすさが向上しました。




そしてその分、外のアプローチに数段の段差がある家が増えました。
地面から床面を45㎝以上高くしないといけないので、その分外に段差を作っているというわけです。
昔は、玄関ポーチが一段のみの家が多くみられました。
近年は、アプローチに階段がある家が多く、外観がおしゃれになる、防犯性が向上する、などのメリットがあるそうです。
ただ、私はそのような家を見て、いつも思うことがあります…
それって結局、バリアフリーになっていませんよね?!
むしろ、外に段差が増えた分、安全面においては、デメリットが多いと思うんです。
- 雨や雪の日は滑りやすく転倒リスクが高まる。
- 高齢になり、シルバーカーを使用する場合、シルバーカーを外の道路まで降ろせない。
- 段差の数が増えた分、車いすを上げることも大変になる。
といったデメリットです。
シルバーカー利用を想定した時の注意点


私が担当している高齢者の方も、杖での歩行は不安定ですが、シルバーカーなどを使用すると安全に歩行できる方がたくさんいます。
そして、シルバーカーは基本的に玄関の土間に収納している方が多いんです。
玄関ポーチの段差が低く1~2段なら、自分でシルバーカーを上げたり下ろしたりすることが可能な場合が多いです。しかし、段差が増えると、危険性が上がりそれが難しくなります。
すると、一人で外出すること自体が難しくなってしまうんです。
中には、段差の横にスロープを設置している住宅もありますが、ほとんどの住宅は段差のみだと感じています。
車いすの場合はどうなる?介助で上げられる高さの目安|現場経験と研究から
では、車いすの場合はどうでしょう?


実際の介護現場から考える高さの目安



私自身の現場経験としては、利用者さんの体重が極端に重くなければ20~30㎝程度の段差なら1人で車いすを上げることは可能です。
つまり、上がり框1段+玄関ポーチ1段であれば、慣れた介助者なら車いすの上げ下ろしが可能な場合が多いです。
また、段差が数段ある場合でも、
例:上がり框で一段+玄関入口で一段+玄関ポーチで一段(計3段)
など、各段の奥行きがしっかりある上で数段の段差がある場合、車いすの前輪後輪がしっかり地面に設置するため、上げ下ろしは難しくありません。
また、玄関ポーチの広さがあれば、折りたたみ式のスロープなどを利用することもできます。
研究でわかっていること
玄関やアプローチの段差について、公共の基準では「介助者1人で車椅子を上げられる高さ」は明記されていません。
国交省の設計標準などは「段差はできるだけなくす」「やむを得ない場合は数センチ程度まで」といった安全寄りの基準を示しているだけです。
一方で、研究レベルではいくつか報告があります。
例えば、日本の能登らの実験では「段差が高くなるほど介助者の負担は大きくなるが、操作方法を工夫すれば20cm程度までなら1人介助で対応可能なケースがある」と報告されています。(※参考文献に記載)
また、スウェーデンのPetzällの研究でも「20〜30cm程度は熟練した介助者なら可能だが、条件によっては危険性が増す」とされています。(※参考文献に記載)
ただし、いずれも「介助者の体格・力」「段差の奥行き」「車椅子の種類」などによって大きく左右されるため、一律に「◯cmまで可能」とは言えないのが実情です。
また、研究でも指摘されているように「可能かどうか」と「安全かどうか」は別の問題です。
介助者の負担だけでなく、乗っている方の振動や不安感も考慮する必要があります。
わが家の玄関事例と将来の対策
【わが家の玄関】リノベのため、上がり框は旧居と同じ仕様です。
- 玄関の上がり框の高さは40cm
- 式台があって2段のため、登り降りの動作はそれほど大変ではない
- 玄関ポーチは190㎝×190㎝と広く、13段13cmと低いため、将来シルバーカーや車椅子での出入りはしやすい
わが家の場合、式台が2段あり、介助で車いすを1人で持ち上げるのは困難です。
将来、もし義母が車いすになったら…
- 折りたたみ式のスロープをレンタル。玄関の土間において置き、外出のたびに出し入れ
- リフォームで玄関の土間の高さを上げて、式台をなしにする。(玄関入口10㎝+上がり框30㎝)
- 夫と二人で介助または福祉タクシーを利用して手伝ってもらう
などの工夫ができるかなと考えています。
また、持ち上げるには2人介助が必要ですが、2段なのでそれほど大変ではありません。



式台は、本当は後付け式で取り外しが簡単なものにしたかったです。
その方が、のちのち「手すりつき踏み台」に変更したり、「撤去」したりと、その時の家族の状況に応じて変更しやすいと思います。
安全な玄関の提案と設計時に確認したいチェックポイント
将来まで安全に使用できる玄関や外構
- 外部段差は1段。または2段程度に抑え、上がり框を少し高めにして踏み台を置く
- シルバーカーや車いすでも安全に移動できるよう、ポーチは広めに設計
- 段差とスロープの両方を設置(勾配・幅・手すりの確認)
- 視覚的に段差を認識しやすくする(色分け・照明)
- 材料選びも滑りにくさや耐久性を重視
- 将来的に手すりをつけることを想定、撤去や変更可能な可動式設計も検討
住宅計画段階で、「将来変更できる余裕」を持たせましょう。
チェックポイント
玄関や外構の設計図ができたら、以下のことを確認しましょう。
- 上がり框、玄関ポーチ、アプローチなど、どこに段差があり、各々何センチの段差か
- 玄関の入口の幅、玄関ポーチの広さを確認
- アプローチに段差(階段)がつく場合、蹴上げ(一段の高さ)だけでなく奥行きも確認
- 将来スロープが設置可能な傾斜になるか
- 将来どこかに昇降機などが設置可能なスペースがあるか



住宅地の環境やコストの関係で、できないこともあると思います。
最初からすべて整える必要はありませんが、将来をイメージし、リフォームがしやすい環境にしておくことが大切です。
まとめ|将来を見据えた段差設計の考え方
将来まで安全な玄関にするため、上がり框の高さだけでなく、玄関ポーチ、その先の道路までのアプローチをしっかり考えることが大切です。
「将来の安全性や活動範囲、暮らしやすさ」に直結する大事な要素です。
- 家族構成やライフスタイルに合わせて、高さ・段数・奥行きを慎重に検討
- 後から変更できる工夫も加える
こうした視点を持つことで、家族みんなが長く安心して暮らせる玄関設計につながります。
最後までお読みいいただき、ありがとうございました✨
参考文献・参考リンク
- 建築基準法
国土交通省:建築基準法(e-Gov法令検索)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201 - 設計基準・指針
国土交通省:「高齢者等配慮住宅設計指針」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/barrierfree/ - 研究論文
- 能登裕子ほか:「介助負担と乗り心地を考慮した車いす段差乗り上げ介助操作の研究」
(日本生活支援工学会論文誌, 2009) - J. Petzäll: Traversing step obstacles with manual wheelchairs, 1996.
- 能登裕子ほか:「介助負担と乗り心地を考慮した車いす段差乗り上げ介助操作の研究」
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